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人事がAIをマネジメントする時代の実務|コンテクストのダブルホイール戦略

#AI活用

前回の記事では、メルカリとSansanの人事を手がかりに、採用計画とAI導入計画を同じテーブルで考える時代が来ていることをお話ししました。

では、人事がAIというリソースも含めてマネジメントするとき、制度や運用の何を変えればよいのか。今回は、人事制度の設計に長く携わってきた立場から、実務への落とし込み方を整理します。

軸にするのは「コンテクストのダブルホイール戦略」

最初に、全体を貫く考え方をお伝えします。私たちはこれをコンテクストのダブルホイール戦略と呼んでいます。

  • 組織の輪: 組織の輪でAIの出力を最大化する。ベテランの勘どころや仕事の経緯といった、まだ言葉になっていない知恵も含めて、会社のコンテクストを貯め、管理する
  • 個人の輪: 個人の輪で最良の解釈と意思決定をする。一人ひとりが経験や知識を積み、AIが出したものを的確に読み解いて、良い判断につなげる

車の両輪と同じで、片方だけでは前に進みません。組織の輪だけが回っていても、質の高い出力が「ふーん」と読み流され、判断に活かされない。個人の輪だけが回っていても、目利きの手元に平凡な出力しか届かない。二つがかみ合ったときに初めて、AIは組織を前へ進める力になります。

ここからは、この二つの輪を人事の各機能にどう落とし込むかを、順に見ていきます。

役割定義: コンテクストの「持ち主」を決める

組織の輪を回すうえで、まず決めたいのは責任の所在です。

何を貯めるのか。業務の手順、言葉の定義、判断の基準、過去の成功や失敗。なかでも急ぎたいのは、ベテランの頭の中にしかない判断の基準です。その人が退職すれば、組織のAIも一緒に「退職」してしまうからです。

どこに貯めるのか。手順はスキル、知識はチームの共有ドキュメント、数字はデータ基盤と、置き場所の使い分けを社内ルールとして決めます。

そして、誰が貯めるのか。「みんなでやろう」は、誰もやらないのと同じ意味になりがちです。部署ごとにコンテクストの持ち主を決め、更新を本来の業務として役割定義に書き込むことをおすすめします。

育成: 外れかけた「はしご」をかけ直す

個人の輪について考えるとき、避けて通れない現象があります。AIを使い込んでいる人たちのあいだでよく聞く、「AIはジュニアよりシニアに有利に働く」という実感です。私たちも同じように感じています。

AIの良さは、ばらばらの点と点を線でつなぎ、人より速く答えにたどり着けることにあります。ただし線を引けるのは、つなぐための点、つまり経験や知識、失敗の記憶をたくさん持っている人です。ベテランはAIの出力を見た瞬間に「これは使える」「ここは怪しい」と判断できますが、経験の浅い人にはその足場がありません。

さらに深刻なのは、これまで若手が経験を積む場だった議事録、調べ物、資料の下書きといった仕事を、AIが真っ先に引き受けてしまうことです。若手が点を貯めるための「はしご」が、下の段から外れていきます。放っておけば、数年後には「次のベテランが育っていない」組織になります。採用でいくら補っても、育つ仕組みがなければ同じことの繰り返しです。

だからこそ、育成の設計を意図的に組み直す必要があります。一般的な打ち手として、次の3つを挙げます。

  • AIを家庭教師として使ってもらう: 何度同じことを聞いても嫌な顔をしない相手です。「分からない言葉はすべてAIに聞く」を職場の習慣にするだけで、学ぶ速度は上がります
  • 「あえて自分でやる」仕事を残す: AIに任せきってよい業務と、育成のために一度は自分の手でやるべき業務を、会社として分けておきます。効率だけを追わない、意図的な設計です
  • AIの出力を採用したか却下したか、その理由を言葉にしてもらう: 「なぜこの案は使えないと判断したのか」を説明できたとき、それが新しい点になります

オンボーディング: 入社初日に、組織のコンテクストを渡す

新しく入った人の立ち上がりも、二つの輪をつなぐ大切な場面です。

入社初日に、会社の前提や言葉の定義、手順をまとめたコンテクストを、本人と本人のAIの両方に渡す。そうすれば、本人のAIは初日から会社のことを知った状態で動けます。AIのメモリを育てることは、そのままオンボーディングの設計になります。

あわせて、「今週AIに教えたこと、AIから教わったこと」を持ち寄る学び合いの場を定例に組み込むと、個人の気づきが組織の輪へと戻っていきます。

評価: ツール名ではなく、変わらない力と行動を見る

人事制度の実務家として、評価について一つだけ強調させてください。

等級や評価の基準にAI活用を組み込むとき、「このAIツールを使えること」を要件にするのは避けたほうがよいと考えています。ツールの使い方は、数年もすれば古くなるからです。

評価に載せたいのは、次の二つです。

  • 自分の仕事を、AIに任せられる形に組み立て直せる力
  • 判断の基準や手順を書き残すなど、組織にコンテクストを残す行動

制度は流行りのツールではなく、時間がたっても価値の変わらない力と行動に結びつける。これはAIが登場する前からの、制度設計の基本そのものです。

人事の仕事は、減るのではなく深くなる

「AIが入ったら、人事の仕事は減るのでしょうか」と聞かれることがあります。私たちの答えは逆です。人の採用、配置、育成に加えて、AIの配置と育て方、そして人とAIの分担の設計までが人事の仕事になります。人事は、経営の中心にいっそう近づいていきます。

これは会社の規模を問いません。組織と個人に、どうコンテクストを貯めていくか。この問いに早く向き合った会社から、組織の力に差がつき始めています。

OhEN Funwork Studiosは、採用支援と人事・組織づくりを仕事にしている会社です。「AIを前提に等級や評価の基準を見直したい」「若手が育つ仕組みをもう一度設計したい」といったご相談をお受けしています。お気軽にお声がけください。

AIの活用を社内でどう進めるかは、AI活用支援でもご紹介しています。ご相談はお問い合わせフォームから、お気軽にどうぞ。

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この記事の要点

  • 人事のAIマネジメントの軸は「コンテクストのダブルホイール戦略」。組織の輪でAIの出力を最大化し、個人の輪で最良の解釈と意思決定をする。両輪がそろって初めて前に進む
  • 役割定義では、何を・どこに・誰の責任で貯めるかを決め、コンテクストの持ち主を部署ごとに置く
  • AIは経験の多い人に有利で、若手の育成の場もAIが引き受けていく。家庭教師としての活用・あえて自分でやる仕事・採否の理由の言語化で、育成のはしごをかけ直す
  • オンボーディングでは初日に組織のコンテクストを本人とAIに渡す。評価はツールの習熟ではなく、AIに任せる設計力と組織に残す行動に結びつける

OhEN Funwork Studiosでは、採用・人事の現場に根ざしたAI活用支援・AI研修を提供しています。

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