前回の記事では、会社の前提や経緯といったコンテクストを貯めるほどAIは賢くなり、それは組織能力の開発そのものだとお話ししました。
個人でこれを続けていると、早ければ数週間で別の悩みが出てきます。「自分のAIは育ってきたけれど、チーム全体の仕事は変わらない」「せっかくの蓄積を、ほかのメンバーにも使ってほしい」。この記事では、この段階で何が起きるのか、そして人事はどう関われるのかを考えます。
個人戦から組織戦に移ると、問題の種類が変わる
一人ひとりのAIに貯まった知識には、二つの弱点があります。
一つは、隣の人のAIには伝わらないことです。自分のAIは「うちでは応募数に重複を含めない」と知っていても、同じチームの別の人のAIは知りません。結果として、同じ数字がメンバーによって違って出てくる、といったことが起こります。
もう一つは、人について回ってしまうことです。その人が異動や退職をすれば、貯めた知識もチームから消えます。ベテランの頭の中にしかないノウハウと、まったく同じ問題です。
ここで大事なのは、AI活用が個人の工夫から組織の取り組みに移った瞬間、向き合う相手が技術から情報共有という昔ながらの組織課題に変わる、という点です。そしてそれは、もともと人事が長く向き合ってきたテーマでもあります。
置き場所は「人もAIも同じ場所を読む」が鉄則
まず決めるのは置き場所です。原則は一つだけで、人が読む資料とAIに読ませる資料を別々に作らないことです。
二つに分けると、日々さわるほうだけが更新され、もう一方は作った時点から古くなっていきます。だから、メンバーがふだん読み書きしている場所に、AIもそのまま読みにいけるようにしておく。これが一番長持ちします。
具体的な選び方としては、次のように考えるとシンプルです。
- 事務系・少人数のチーム: Notionのような文書ツール。人にとって書きやすく、MCPでAIも直接読み書きできる。会社の前提、用語の定義、業務の手順、議事録を一か所に集めておけば、誰のAIも同じ前提で動ける
- 開発のチーム: GitHub。AI向けの指示書(
CLAUDE.mdのような名前のファイル)をプログラムと一緒に保管し、変更の履歴も残せる
私たち自身も、このブログの記事や運用ルール、公開予定をNotionにまとめ、人とAIが同じページを見て動いています。
共有が止まるのは「更新が誰の仕事でもない」から
置き場所をつくった会社の多くが、しばらくすると「作ったけれど、誰も更新していない」という状態になります。
人事の方には見慣れた光景だと思います。業務マニュアル、手順書、引き継ぎの資料。最初に作るところまでは進むのに、続かない。理由ははっきりしていて、更新が誰の仕事にもなっていないからです。ツールを変えても、この構図が変わらなければ同じことが起きます。
逆に言えば、ここは人事の打ち手がそのまま効く領域です。私たちは、次の3つの組み合わせをおすすめしています。
1. 更新の持ち主を決める
「みんなで更新しよう」は、たいてい誰も更新しないのと同じです。用語の定義はこの人、採用の手順はこの人、というように、領域ごとに持ち主を決めて役割として明記します。持ち主は全部を書く人ではなく、古くなっていないかに目を配る人です。
2. 会議の流れに組み込む
定例会議の終わりに5分だけ、「今週AIに教えたことのうち、チームで使えそうなものはあるか」を確認する時間をとります。新しい定義や手順が出てきたら、その場で共有の場所に書く。「あとで書く」は、まず書かれません。特別な時間を設けるより、すでにある会議の流れに乗せるほうが続きます。
3. 評価で報いる
一歩踏み込むなら、共有の場所への貢献を評価の対象にすることです。自分の知見を書き出した人が、その分きちんと認められる。反対に、情報を抱え込んでいる人のほうが重宝される仕組みのままでは、どんなツールを入れても共有は進みません。これは制度設計の問題です。
共有された知識は、受け入れの道具にもなる
もう一つ見落とされがちなのが、共有の場所はそのまま新しいメンバーの受け入れに使える、という点です。
前提、定義、手順がまとまっていれば、新しく入った人はそれを読み、自分のAIにも同じ場所を読ませるだけで、早い段階からチームと同じ基準で仕事ができます。異動や退職のときの引き継ぎも、「この場所を見てください」で済む範囲が広がります。共有の取り組みは、オンボーディングと引き継ぎの負担を同時に軽くしてくれるのです。
おわりに
コンテクストの共有は、置き場所を決めるだけでは終わりません。誰が更新し、いつ拾い、どう報いるか。続くかどうかを決めるのは、ツールではなく組織の仕組みです。そして話はここから、会社全体として「AIが働きやすい組織とは何か」という問いへ進んでいきます。
OhEN Funwork Studiosは、採用支援と人事・組織づくりを仕事にしている会社です。「マニュアルや引き継ぎ資料が続かない」「知見を共有した人が報われる評価にしたい」といったご相談をお受けしています。お気軽にお声がけください。
AIの活用を社内でどう進めるかは、AI活用支援でもご紹介しています。ご相談はお問い合わせフォームから、お気軽にどうぞ。
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この記事の要点
- 個人のAIに貯めた知識は、隣の人のAIに伝わらず、異動や退職で消える。組織の段階に入ると、課題は技術から情報共有に変わる
- 置き場所は、人もAIも同じ場所を読むのが鉄則。少人数の事務系チームはNotion、開発チームはGitHub
- 共有が止まるのは、更新が誰の仕事でもないから。更新の持ち主を決める・会議に組み込む・評価で報いる、の3つで続く形にする
- まとまった共有の場所は、新しいメンバーのオンボーディングや引き継ぎの道具にもなる
OhEN Funwork Studiosでは、採用・人事の現場に根ざしたAI活用支援・AI研修を提供しています。