前回までの記事で、システム同士はAPIという「窓口」を通してやり取りしていることをお話ししました。人事の現場でいえば、採用管理、勤怠、給与、評価がそれぞれ別のシステムに分かれていて、そのあいだを人が手で埋めている、という状態です。
そこで次に出てくる願いが、「AIに、社内のツールを直接触らせて、この手作業を引き取ってもらえないか」というものです。それを可能にする仕組みがMCPです。この記事では、技術の細部には立ち入らず、人事や組織づくりの立場から押さえておきたい点に絞ってお伝えします。
ひとことで言えば「差し込み口の統一」
MCP(Model Context Protocol)は、AIと外部のサービスを接続するための取り決め、つまり共通規格です。ここ1〜2年のあいだに、AIの世界で一気に広がりました。
イメージしやすいのはパソコンのUSBです。かつては周辺機器ごとに差し込み口の形がまちまちでしたが、規格がそろったことで、メーカーを問わず差せば動くようになりました。MCPはその考え方をAIに持ち込んだものです。APIはサービスごとに作法が違いますが、MCPに対応したサービスであれば、AIは共通のやり方でつながれます。
経営者や人事の方が覚えておくのは、「共通の差し込み口がある」ということだけで十分です。中の仕組みを理解しなくても、判断に必要な論点は押さえられます。
採用担当者の一日から「運び屋」の仕事が消える
人事の仕事のなかで、MCPの効き目がいちばん分かりやすいのは採用です。たとえば、こんな頼み方ができるようになります。
- カレンダーとつながっていれば、「来週の空いている枠から、この候補者との面接日程を3つ挙げて」
- メールとつながっていれば、「この応募者とこれまでにやり取りした内容をまとめて」
- Notionなどの社内文書とつながっていれば、「先月の1on1の記録をもとに、次回の話し合いの議題をつくって」
これまでは、どれも人が画面を行き来して情報を運んでいました。候補者一人について、メールを探し、空き日程を確かめ、評価シートを開き、前回の面接メモを読み返す。ひとつひとつは数分の作業でも、同時に20人の選考が動いていれば、それだけで半日がなくなります。採用担当者の時間の多くが、判断ではなく「情報の運搬」に使われているわけです。
ちなみに、私たちのこのブログもNotionで原稿を書き、AIがMCP経由でNotionを読み書きしてサイトに載せる、という流れで運用しています。つないだことで、更新のための手作業はほとんどなくなりました。
AIをつなぐ=新しいメンバーに鍵を渡す
ここからが、人事にとっての本題です。MCPでAIをツールにつなぐことは、AIにそのツールを操作する権限を渡すことにほかなりません。メールにつなげばAIはメールを読めますし、カレンダーにつなげば予定を書き換えられる可能性もあります。
人事領域では、これがとりわけ重い意味を持ちます。人事システムにAIをつなげば、全社員の給与や評価にAIが触れられる状態が生まれるからです。読むだけなのか、書き換えまで許すのか。どこまでのデータを見せるのか。操作の記録は残るのか。これはITの設定の話というより、権限をどう設計するかという組織の話です。
そして、この問いは人事にとって決して新しいものではありません。入社した人に社内システムのアカウントを発行し、異動のたびに見られる範囲を変え、退職のときには止める。人事はもともと、人に対してこの「鍵の受け渡し」をしてきました。入ったばかりの担当者に、初日から全社員の給与テーブルを編集できる権限を渡す会社はないはずです。
AIも同じように扱えばよい、というのが私たちの考えです。
人事が用意しておきたい3つの決めごと
AIを「新しく加わるメンバー」とみなすと、人事が整えておくべきことが見えてきます。一般的な打ち手として、次の3つをおすすめします。
1. 役割に応じた範囲を決める
採用の日程調整を任せるAIには、カレンダーと採用関連のメールだけ。評価や給与のデータには触れさせない。人の職務分掌と同じように、任せる仕事から逆算して、つなぐ先と許す操作を決めます。
2. 記録が残る形にする
誰が、いつ、何を見て、何を変えたのか。人の操作と同じく、AIの操作もあとからたどれる状態にしておきます。何か起きたときに原因を確かめられることが、現場の安心につながります。
3. 小さく始めて、段階的に広げる
最初は読み取りだけ、範囲も採用の一部だけ、といったところから始め、問題がないことを確かめながら広げていきます。試用期間を経て任せる仕事を増やしていく、人の育成と同じ考え方です。
こうした線引きは、社内の安全な利用ルールの延長にあります。差せばすぐつながるからこそ、何を差すのかを決めるのは人の役目です。
おわりに
MCPは技術の言葉ですが、その中身は「誰に、どこまで任せるか」という、人事が昔から向き合ってきた問いです。技術の細部を知らなくても、「共通の差し込み口がある」「つなぐことは権限を渡すこと」の2点を押さえておけば、社内で議論するときに迷いません。
次回は実務編として、実際にAIをカレンダーやメールにつなぎ、採用の作業がどう変わるかを試してみます。
OhEN Funwork Studiosは、採用支援と人事・組織づくりを仕事にしている会社です。「AIに採用の手作業を任せたいが、権限やルールをどう決めればいいか分からない」といった段階からご相談をお受けしています。お気軽にお声がけください。
AIの活用を社内でどう進めるかは、AI活用支援でもご紹介しています。ご相談はお問い合わせフォームから、お気軽にどうぞ。
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この記事の要点
- MCPはAIと社内ツールをつなぐ共通規格。対応していれば、AIは同じやり方でさまざまなサービスに接続できる
- 採用実務では、候補者ごとの情報の行き来だけで半日が消えている。つなぐことで、この「運搬」の仕事をAIに任せられる
- AIをつなぐことは権限を渡すこと。人事システムなら、全社員の給与や評価にAIが触れる状態を生む
- 人事が整えるべきは、役割に応じた範囲・操作の記録・段階的な拡大の3つ。入社や異動の権限管理と同じ考え方で臨めばよい
OhEN Funwork Studiosでは、採用・人事の現場に根ざしたAI活用支援・AI研修を提供しています。