採用のご相談を受けていると、「せっかく採ったのに、期待ほど立ち上がらない」という悩みをよく聞きます。話を伺うと、多くの場合、問題は本人よりも受け入れる側の準備にあります。
実は同じ悩みが、AIの導入でも起きています。「AIを入れてみたけれど、思ったほど役に立たない」。私(OhEN Funwork Studios 代表)は、AIエージェントのClaude Code(クロードコード)を日々の仕事で使い込むなかで、この二つは根っこが同じだと感じるようになりました。この記事では、AIを育てた体験を入り口に、人の受け入れと育成をどう設計し直すかを考えます。
「使えない」の正体は、受け入れ側の準備不足
使いはじめたばかりのAIは、地頭はいいのに社内事情を何も知らない新人のようなものです。自社の事業も、上司の好みも、これまでの経緯も知らない状態で仕事を渡されれば、的外れな成果物が返ってくるのは当然です。
人の採用でも、同じ構図はよく見られます。ポテンシャルを見込んで採用したのに、入社してから3ヶ月のあいだ何も設計しないまま「期待したほどではなかった」と結論づけてしまう。オンボーディング(入社後の受け入れと立ち上がり支援)の不在が、本人の評価にすり替わっているわけです。
AIと人で違うのは一点だけです。AIは、一度教わったことをファイルに書き残し、忘れません。逆に言えば、教えるべき中身を用意していない会社では、AIも人も同じように伸び悩みます。
メモリーの中身は、新人に渡すべき情報そのもの
Claude Codeには、仕事のやり方を覚えて次回以降に使う「メモリー」という仕組みがあります。私のメモリーに溜まっているものを分類すると、おおむね次の4種類です。
- 仕事の進め方の好み(報告は結論が先、数字には出典を添える、など)
- 繰り返し使う手順(週次レポートや議事録の型、集計のルール)
- 過去につまずいた点と、その回避策
- 進行中の案件や取引先ごとの事情
見比べていただくと分かるとおり、これは入社した人に最初の数週間で伝えたい内容とほぼ重なります。ところが多くの会社では、この情報がベテランの頭の中にしかありません。担当が替わるたびに品質が下がり、引き継ぎが「人による」状態になるのはそのためです。
AIのメモリーを整える作業は、結果として、この暗黙知を文章にしていく作業になります。AIのために書いたものが、そのまま人の受け入れ資料の下書きになる。私がAI活用を人事の話として捉えている理由の一つがここにあります。
育ったかどうかは「説明の短さ」で分かる
使いはじめた頃の私は、データの置き場所、売上の定義、集計の分け方、資料の体裁まで、毎回長々と説明していました。半年ほどたった今は、「いつもの月次分析を今月分で」とひと言伝えれば、過去の注意点まで踏まえた成果物が返ってきます。
これは人の育成を測る物差しとしても使えます。どこまで説明を省いて任せられるようになったか。何年たっても細かな指示がないと動けないのなら、本人の資質より先に、育成の仕組みを疑ったほうがよいでしょう。
人事が整えたい3つの仕組み
ここからは、AIを育てるなかで見えてきた、人の育成にもそのまま効く打ち手を3つ挙げます。どれも特別な制度ではなく、明日から設計を見直せるものです。
1. その場で「次からはこうして」と伝える文化
AIの成果物が気に入らないとき、黙って自分で手直しするのがいちばん育たないやり方です。直したうえで「今後はこうしてほしい」と一言添えると、次の回から反映されます。
人の部下でも同じです。上司が黙って修正する職場では、本人は何が問題だったのかを知る機会を失います。フィードバックを「評価面談で年に数回」ではなく「仕事の場でその都度」行う習慣を、管理職の役割として明文化しておくことをおすすめします。
2. 「覚えておいて」を仕組みにする
AIには、大事なルールを「これは覚えておいて」と伝えると、メモリーに書き込んでくれます。人の組織に置き換えると、誰かが現場で学んだことを、個人のノートではなく共有の場所に残すルールです。
オンボーディング資料を人事部が一度作って終わりにするのではなく、現場の気づきが日々書き足されていく形にしておくと、次に入ってくる人の立ち上がりが確実に早くなります。
3. 定期的な棚卸し
私は数ヶ月に一度、AIに「覚えていることを一覧で見せて」と頼み、古くなった内容を整理しています。人事異動や方針の変更があったあとは特に大切です。
業務マニュアルも同じで、作ったきり更新されない手順書は、むしろ誤りの原因になります。誰がいつ見直すのかを決め、組織変更や制度改定のタイミングで点検する。マニュアルにも「担当者」と「更新日」を持たせることが、ナレッジ継承(知識の引き継ぎ)の基本です。
覚えさせてはいけないものを先に決める
メモリーは便利な反面、何でも書き込めてしまいます。顧客や従業員の個人情報、パスワードなどの認証情報は覚えさせない。メモリーの保存場所も、社内の情報管理ルールの対象に含める。この線引きは、使いはじめる前に決めておく必要があります。
人事の立場からは、これは就業規則や情報管理規程の延長にある話です。社員がAIに何を渡してよいのかを明確にしておかないと、現場は不安で使えないか、逆に無自覚に危ないものを渡してしまいます。安全に使うための線引きの考え方は、生成AIを安全に使うにはで詳しく書いています。
おわりに
人を育てるのが上手な会社は、AIを育てるのも上手です。反対に、AIがいつまでも戦力にならない会社は、人の受け入れ方にも同じ課題を抱えていることが少なくありません。AIの導入は、自社のオンボーディングやナレッジの残し方を見直すよいきっかけになります。
OhEN Funwork Studiosは、採用支援と人事・組織づくりを仕事にしている会社です。「新しく入った人がなかなか立ち上がらない」「引き継ぎが属人的になっている」といった段階からご相談をお受けしています。お気軽にお声がけください。
AIの活用を社内でどう進めるかは、AI活用支援でもご紹介しています。ご相談はお問い合わせフォームから、お気軽にどうぞ。
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この記事の要点
- AIが「使えない」と感じる原因は、人の採用と同じく、受け入れ側の準備不足であることが多い
- AIのメモリーに溜まる内容(仕事の好み・手順・過去のつまずき・案件の事情)は、新しく入った人に渡すべき情報とほぼ同じ
- 人の育成にも効く打ち手は3つ:その場でのフィードバック、気づきを共有の場所に残す仕組み、定期的な棚卸し
- 個人情報や認証情報を覚えさせない線引きは、情報管理規程の延長として使いはじめる前に決めておく
OhEN Funwork Studiosでは、採用・人事の現場に根ざしたAI活用支援・AI研修を提供しています。