採用のご相談を受けていると、ときどき不思議な場面に出くわします。人事部では「来期は事務スタッフを1名増やしたい」と採用計画を練っている。同じころ、経営企画や情報システムの担当者は「その事務作業の8割をAIで自動化する」という導入計画を進めている。どちらも真剣で、どちらも会社のためを思っている。けれど、二つの計画は別々の会議で決まり、互いに顔を合わせることがありません。
この「二つの会議」問題に、大企業がひとつの答えを出し始めています。
同じ日に発表された、二つの人事
2026年6月1日、日本のIT業界で象徴的な人事が二つ、同時に発表されました。
- メルカリは、CTO(最高技術責任者)の木村俊也氏がCHRO(最高人事責任者)兼CAIO(最高AI責任者)に就任
- Sansanは、取締役/CHROの大間祐太氏が新設の「CAXO(Chief AI Transformation Officer)」に就任
メルカリは「HR for an AI-Native Company」を掲げ、働き方、意思決定の進め方、組織の形、リソースの配り方を、AIがいる前提で組み直すとしています。技術の責任者だった人が、人と組織の責任者を兼ねる形です。
Sansanは逆に、人事の責任者が全社のAI変革を率いる形をとりました。同社は社内の生成AI活用率を99%と公表しており、人事部門の直下にAI活用を進める専門の組織も置いています。
入り口は正反対に見えます。けれど、たどり着いた答えは同じです。人をどこに置くかと、AIをどこに置くかを、一人の責任者がまとめて見る。冒頭の「二つの会議」を、ひとつにしたわけです。
「誰にやらせるか」の選択肢が増えた
この動きの背景にあるのは、仕事の割り振り方の変化です。
これまで、ある仕事を誰に担ってもらうかは、人の中から選ぶしかありませんでした。新しく採るか、社内の誰かに任せるか。そこに今、AIに任せるという三つ目の選択肢が加わりました。
選択肢が三つになった以上、それを別々の場で決めるのは筋が通りません。メルカリが掲げる「人とトークン(AIの稼働量)を同時に見る」という考え方は、要員計画のなかに人とAIを並べて書く、という発想だと私たちは受け止めています。人事の仕事は、要員計画も、育成も、評価も、組織の設計も、「人とAIをどう組み合わせるか」を考える仕事へと広がっていきます。
中小企業こそ、ひとつのテーブルが効く
「それは大きな会社の話でしょう」と感じた方もいると思います。私たちはむしろ逆だと考えています。
中小企業にとって、一人の採用はとても重い決断です。年収400万円の方を一人迎えることは、地方の中小企業にとって大きな投資です。採用市場が厳しい今は、募集をかけても応募が集まらないことも少なくありません。そのテーブルに、「月数万円のAI活用で、この業務の多くは賄えるかもしれない」という選択肢が並ぶ。人手が足りずに困っている会社ほど、人とAIを一緒に検討する意味は大きいのです。
誤解のないように書き添えると、これは「採用をやめてAIにしましょう」という話ではありません。むしろ逆で、本当に採るべきポジションを、確信を持って採れるようになるという話です。定型業務の担い手を一人探すのか、判断や創造を担う人を一人迎えるのか。前者をAIで賄えるなら、限られた採用予算を後者に集中できます。採用支援を仕事にしている立場から見ても、そのほうが良い採用になると考えています。
人事が今日からできる3つのこと
中小企業がCAIOのような役職を新しく置く必要はありません。社長や人事責任者が、二つの議論をひとつの場で見るようにすればよいのです。一般的な打ち手として、次の3つをおすすめします。
1. 欠員補充や増員の前に「三択」で考える
人を増やしたいという声が上がったら、すぐに求人を出す前に、その仕事を「新しく採る」「社内の誰かに任せる」「AIに任せる」の三つで検討する場を設けます。増員の申請書に、AIで賄える部分はどこかを書く欄を一つ加えるだけでも、議論の質は変わります。
2. 職務を分解してから採用要件を書く
ひとつのポジションの仕事を、定型的な作業と、判断や対人のやり取りに分けてみます。定型作業の多くをAIに任せられるなら、求人票に書くべき要件は大きく変わります。必要なのは「作業ができる人」ではなく、「AIに任せる部分と人が担う部分を見極め、判断できる人」かもしれません。
3. 要員計画にAIの行を足す
年度の要員計画や人件費の見通しに、AIの利用費とそれが担う業務の行を加えます。人とAIを同じ表に並べることで、片方で増員を積み上げ、もう片方で同じ業務を自動化している、というちぐはぐが見えるようになります。
おわりに
メルカリとSansanの人事が示しているのは、AIが「導入するかどうかを決めるツール」から、「組織のなかでどう配置し、育て、活かすかを考えるリソース」に変わったということです。だからこそ、その責任が人事と重なり始めました。中小企業にとっても、採用計画とAI導入計画をひとつのテーブルに載せることが、限られた人と予算を活かす近道になります。
OhEN Funwork Studiosは、採用支援と人事・組織づくりを仕事にしている会社です。「この増員は本当に必要か、一緒に考えてほしい」「AIを前提に求人票や要員計画を見直したい」といったご相談をお受けしています。お気軽にお声がけください。
AIの活用を社内でどう進めるかは、AI活用支援でもご紹介しています。ご相談はお問い合わせフォームから、お気軽にどうぞ。
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この記事の要点
- 2026年6月1日、メルカリはCTOがCHRO兼CAIOに、SansanはCHROが新設のCAXOに就任。人とAIの配置を一人の責任者が見る形になった
- 仕事の担い手に「AIに任せる」が加わり、採用計画とAI導入計画を別々の会議で決める合理性はなくなった
- 一人の採用が重い中小企業ほど、人とAIを同じテーブルで考える価値が大きい。狙いは採用をやめることではなく、採るべきポジションに予算を集中すること
- 人事の打ち手は、増員前の三択の検討・職務を分解してからの採用要件づくり・要員計画へのAIの行の追加
OhEN Funwork Studiosでは、採用・人事の現場に根ざしたAI活用支援・AI研修を提供しています。