地方の経営者の方から「AIは都会の大企業の話でしょう」と言われることが、いまでもあります。そのたびに私は、少し身構えてしまいます。
OhEN Funwork Studiosは熊本を拠点に、九州を中心とした企業の採用と人事をお手伝いしています。採用のご相談を受けていると、AIの遅れが「生産性の話」にとどまらず、人が集まらない・人が残らないという悩みに結びつき始めているのを感じます。この記事では、あえて厳しい側面から、人事の目線で整理してみます。前向きな話は、次の記事で書きます。
人で勝てないなら、一人あたりで勝つしかない
私は、地域や会社の力を「働く人の数」と「一人が生み出す価値」の掛け算で考えてきました。地方では、このうち前者が都市部より早く細っていきます。私たちのもとに届く相談も、「求人を出しても応募がない」「内定を出したのに大手に行かれた」というものが、年を追うごとに増えています。
人数で勝負できない以上、地方の会社は一人あたりの価値で勝負するしかありません。ところが、その一人あたりの価値を押し上げるAIの活用は、規模の大きい会社ほど進んでいます。帝国データバンクの調査(2026年3月)では、従業員1,000人超の企業の活用率が63.6%なのに対し、5人以下の企業は29.6%。差は2倍を超えています。人数でも不利、一人あたりでも出遅れる。これが、私が身構える理由です。
気づいたときには、1年分の差がある
この差のやっかいなところは、表に出てこないことです。他社がAIを使い始めても、誰も発表はしません。分かるのは、相手の見積もりが妙に早く返ってくるようになった、提案書の出来が急に良くなった、同じくらいの人数なのに倍の案件を回している、といった結果を目にしたときです。その時点で、相手はもう1年ほど使い込んでいます。道具は買えても、使い込んだ時間は買えません。
「安く・丁寧に」が通じにくくなる
地方の会社の多くは、人件費や物価の低さを強みに、「同じ品質をより手頃に」という戦い方をしてきました。ところが都市部の会社がAIで少人数でも回せるようになると、人件費の高さという弱みが目立たなくなります。人件費の差そのものは残っても、生産性の差がそれを上回れば、価格の強みは逆転されかねません。
発注側の物差しも動きます。私たち自身、生産性が上がった分だけ原価が下がり、お客様への提供価格を下げました。こうした会社が増えれば、「資料は2週間ください」という従来のペースは、相手から見て遅く、高く映るようになります。自社が何も変えていなくても、比べられる相手が変わってしまうのです。
人事の観点で言えば、この変化は「同じ仕事を、これまでと同じ人数・同じ時間で続けてよいのか」という問いとして跳ね返ってきます。
人事にいちばん響くのは、採用と定着への飛び火
採用の仕事をしている私たちが最も重く見ているのは、ここです。
入口:選ばれる理由が一つ減る
これから働き始める世代にとって、AIを使える職場かどうかは、会社選びの条件の一つになりつつあります。単純作業に追われる職場と、そうした作業は任せて人にしかできない仕事に集中できる職場が並べば、後者に人が集まるのは自然です。もともと採用が厳しい地方で、「AIを使えない会社」という不利がもう一つ加わることになります。
入社後:期待とのずれが離職につながる
見落とされがちなのは、入社した後です。学生のころから生成AIを当たり前に使ってきた人が、手作業の転記や紙の回覧が残る職場に入ったら、どう感じるでしょうか。「ここでは成長できない」と感じた人から辞めていく。採用の難しさに、定着の難しさが重なる。これがいちばん重い形の危機だと考えています。
求人票と実態のギャップ
さらに注意したいのは、求人票や面接で「AIを活用しています」と打ち出しても、入社後の実態が伴わなければ、かえって早期離職の火種になることです。働き方は、言葉で飾るほど、入ってからのずれが大きくなります。業務の進め方そのものが、採用力であり定着力でもある。いまの採用の現場で、私たちが強く感じていることです。
人事がいま点検しておきたいこと
危機の多くは、何も手を打たないことから生まれます。人事の立場から、まずは次の点を確かめてみてください。
- 採用広報と実態は一致しているか: 求人票や会社説明で語っている働き方が、配属先の現実と食い違っていないか
- 若手の「もったいない時間」を把握しているか: 若手社員が、転記や集計などの単純作業にどれだけ時間を取られているか。面談やアンケートで拾えているか
- 退職理由に業務のやり方が混ざっていないか: 「成長できない」「やり方が古い」という声が、退職面談の記録に出てきていないか
- 人員計画が「増員ありき」になっていないか: 仕事が増えたら人を足す、という前提だけで計画を立てていないか
最新の調査では、生成AIを使い始めた企業はすでに3社に1社ほどで、先に使った企業の9割近くが効果を感じています。「うちには関係ない」と様子見を続けることは、不利を放置したまま、得られたはずの効果も手放す選択です。社内でのAI利用を「なんとなく禁止」にしている状態と、構図はよく似ています。
それでも、悲観はしていません
ここまで厳しいことを書きましたが、私は地方の会社の将来を悲観していません。人数で勝負できない地方だからこそ、一人あたりの価値を上げる一手が、いちばん効くと考えています。採用と定着の悩みも、裏返せば打ち手になります。その具体的な話は、AI時代の地方企業のチャンスに書きました。
OhEN Funwork Studiosは、採用支援と人事・組織づくりを仕事にしている会社です。「採用も定着も厳しいが、働き方のどこから見直せばいいか分からない」といった段階からご相談をお受けしています。お気軽にお声がけください。
AIの活用を社内でどう進めるかは、AI活用支援でもご紹介しています。ご相談はお問い合わせフォームから、お気軽にどうぞ。
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この記事の要点
- 地方は働く人の数で不利なため一人あたりの価値で勝負するしかないが、AIの活用は大企業ほど進んでいる(1,000人超63.6%、5人以下29.6%)
- 生産性の差は外から見えずに開き、「安く・丁寧に」という地方の戦い方も通じにくくなる
- 人事にとって最も重いのは、採用の入口で選ばれにくくなることと、入社後の期待とのずれによる離職。求人票と実態のギャップは早期離職の火種になる
- まずは採用広報と実態の一致、若手の単純作業の時間、退職理由、増員ありきの人員計画を点検する
OhEN Funwork Studiosでは、採用・人事の現場に根ざしたAI活用支援・AI研修を提供しています。