人事の部署には、実は社内でも指折りの量のデータが眠っています。応募者の記録、面接の結果、勤怠、評価、退職者の情報、従業員アンケート。それなのに、「採用管理システムから出力はできるけれど、見て終わり」「集計は表計算に強い一人に任せきり」という話をよく聞きます。
生成AIで実際にどんな仕事ができるのかを、業務ごとに紹介するシリーズの1回目です。今回は、AIエージェント(Claude Codeのように、PCの中でファイルを開いて作業までこなすAI)を使ったデータ分析を、人事データを題材にお話しします。
人事データが「眺めるだけ」になる理由
人事のデータ活用を止めている壁は、主に二つあります。
一つは、扱える人が限られることです。ピボットテーブルや関数を自在に使える人がいないと、データから意味のある答えが出てきません。その人が忙しければ、分析は後回しになります。もう一つは、手間です。集計して、グラフにして、会議資料に仕立てる。ちょっとした分析でも、半日はつぶれてしまいます。
そのため、データは手元にあるのに、採用会議は「今年はなんとなく応募が少ない気がする」という肌感覚で進んでしまう。多くの会社で見かける光景です。
分析が「日本語で聞く」仕事に変わる
AIエージェントを使うと、この二つの壁が同時に低くなります。データのファイルを指定し、知りたいことを普段の言葉で頼むだけです。たとえば、人事の担当者ならこんな依頼の仕方が考えられます。
このフォルダにある2024〜2026年の応募者データと内定者データを使って、
・採用媒体ごとの応募数と、書類選考から内定までの通過率
・通過率が前年より下がった媒体と、考えられる理由
・1名採用あたりの費用が安い媒体の順位
を、次の採用計画の打ち合わせで配る資料1枚にしてください。AIはファイルを読み込み、集計のためのプログラムを自分で書いて動かし、グラフを付けて資料に整えるところまで、数分で進めてくれます。結果を見て「この落ち込みは営業職だけでは?」と聞けば、そのまま掘り下げてくれます。誰かに依頼して待つ分析から、会話しながら進める分析に変わるわけです。
採用だけではありません。「残業の多い部署ほど退職が多いのか」「評価の高い人ほど長く勤めているのか」「アンケートで不満が多かった項目は、その後の退職とつながっているか」。これまで「気になるけれど調べる時間がない」と流してきた問いに、その日のうちに一次的な答えを出せるようになります。
規模の面でも心強くなりました。表計算ソフトの元データだけで400メガバイトにもなり、普通のPCでは開くことすら難しい明細データでも、AIなら扱えます。相関や重回帰といった統計の手法、さらには複数の切り口からの因果の検討まで、以前ならデータに強いコンサルティング会社に数百万円から1千万円ほどで頼んでいた深掘りが、社内でできるようになっています。私たちの実感では、10時間かかっていた分析とレポートづくりが2時間ほどに縮みます。
人事データならではの、つまずきどころ
便利な一方で、気をつけたい点もあります。とくに人事データでは、次の四つを押さえておきたいところです。
- いきなり分析させない: 最初から「分析して」と頼むと、何が返ってくるかは運次第になりがちです。私たちはこれを「ガチャ化」と呼んでいます。まずデータを見せて「このデータでどんな分析ができそうか」を相談し、設計に納得してから実行に移すと、外れが減ります
- 数字をそのまま信じない: AIも集計を誤ることがあります。合計や件数など要になる数字は、元のデータと照らし合わせる習慣をつけてください。大事な資料では、AI自身に検算させる指示も添えると安心です
- 言葉の定義をそろえる: 「応募数」に同じ人の重複応募を含むのか、「内定率」は応募者を分母にするのか書類通過者を分母にするのか。定義を伝えずに頼むと、それらしく見える誤りが出てきます。最初に定義のメモを渡しておくのが近道です
- 個人情報を守る: 応募者や従業員のデータは個人情報のかたまりです。安全に使える環境を整えたうえで扱ってください。人事データの分析は、氏名を伏せてもほとんど成り立ちます
人事として、仕組みにしておきたいこと
四つのつまずきどころは、個人の注意で防ぐより、人事の決まりごととして整えておく方が確実です。
1. 匿名化の手順を決める
どの項目を伏せ、どの形式に置き換えてからAIに渡すのか。手順を一度決めて文書にしておけば、担当者が変わっても同じ水準で守れます。手順さえ決まれば、いちばんデータを持っている人事が、いちばん恩恵を受けられる部署になります。
2. 人事用語の定義集をつくる
応募数、通過率、離職率、残業時間。言葉の定義を一枚にまとめておくと、AIへの指示が正確になるだけでなく、部署間で数字の食い違いが起きにくくなります。
3. 分析を「一人の特技」から「チームの技能」へ
これまで分析は、表計算の得意な人の特技でした。日本語で頼めるようになった今は、人事のメンバー全員が身につけられる技能です。研修や日々の業務の中で、分析の設計と検算のやり方を共有しておけば、担当者の異動や退職で分析が止まることもなくなります。
そして、出てきた結果をもとに、どの媒体に予算を寄せるか、どの部署の働き方を見直すかを決めるのは人です。AIが浮かせてくれた時間は、その「で、どうするか」を考えることに使ってください。
まずは毎月見ている1ファイルから
最初から採用管理システムや勤怠システムとつなぐ必要はありません。毎月出力している表を1つAIに渡し、日ごろ気になっていることを聞いてみてください。「うちのデータで、こんなことまで分かるのか」という発見があるはずです。
OhEN Funwork Studiosは、採用支援と人事・組織づくりを仕事にしている会社です。「人事データを採用や定着の改善に生かしたいが、何から始めればいいか分からない」といった段階からご相談をお受けしています。お気軽にお声がけください。
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この記事の要点
- 人事には多くのデータが眠っているが、扱える人が限られることと手間の大きさから「眺めるだけ」になりがち
- AIエージェントを使うと、採用の歩留まりや残業と離職の関係などを日本語で聞くだけで分析でき、深掘りも会話で進められる
- つまずきどころは、いきなり分析させない・検算する・定義をそろえる・個人情報を守るの4つ
- 匿名化の手順と人事用語の定義集を整え、分析を一人の特技からチームの技能に変えておくと、人事が最も恩恵を受けられる
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